Columnコラム
全国強化指定選手活動は、2018年度から開始し、2019年度も継続して活動しています。
当面は、2019年6月に行われる第9回APLUアジアパシフィック選手権大会にも参加を予定しています。
今回はDSの活動をご紹介をいたします。
ー 選手一覧 ー
ー 女子競技 強化指定選手団 2019年 情報一覧 ー
世界と伍して戦うために
日本ラクロス協会は長期的なプランを立て、2018年から日本代表を継続的に強化していく活動を始めている。
これまではナショナルチーム男女、19歳以下男女の世界大会が開催されない年には代表チームも稼働せず、空白の期間が生まれていた。
その悩ましき問題を解決するために発足させたのが、デペロップメントスクワッド(DS)。聞き慣れない言葉かもしれないが、意訳すると、4年周期で行われるナショナルチームの世界大会を見据えた、日本代表に準ずる全国強化指定選手団のことである。
毎回50人から100人程度は招集しており、幅広く育成することを目的としている。年齢層も大学生1年生からベテランの社会人までと幅広い。
日本代表プロジェクト推進委員会代表の深澤哲雄氏は「2年後の世界大会で活躍できる可能性のある選手層になっている」と言葉に力を込める。現状、継続した代表の育成をしている国は少なく、日本の強みになる可能性もある。強豪国を見ても、イングランドは同様のシステムを取り入れているが、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどは採用していない。
DSの具体的な活動は、強化練習がメーン。大学リーグ、社会人リーグが行われていない時期に月1度のペースで土日に集まり、1日3、4時間の練習で個人のスキルアップを含め、戦術理解度の浸透に力を注ぐ。年に1度の海外遠征、海外の強豪国を招いて親善試合を行うこともDS活動の一貫。19年1月末には女子のDSメンバー20人でアメリカに出向き、同国代表と対戦した。結果は大差で敗れたものの、選手、コーチそれぞれが海外遠征で大きな刺激を受けていた。
女子は2017年の世界大会後にDS活動を開始して、今年で2年目。女子DSの井川裕之ヘッドコーチは、国際親善試合、強化合宿の成果を実感している。
「昨年6月のイングランドU23代表との国際親善試合(日本開催)ではしっかり対策すれば、強豪国にも勝てるという手応えを得た。1月のアメリカ遠征では、気持ちの強さの重要性を再認識できた。女子ラクロスは速く、力強く、激しいスポーツに変わってきている。DSを始めたときから言葉で選手に説明してきたが、実感してくれたと思う」
1月のアメリカ遠征後、選手たちの意識は劇的に変化したという。
トレーニングからルーズボールの奪い合いの激しさが増し、気迫がみなぎるようになった。「もっと激しく前に出よう」という声が飛ぶと、さらにヒートアップする。守備の際にスティック2本分の間合いで待っていた場面も、1本分になった。運動量もグンと上がった。「走行距離は2倍になっている」と井川ヘッドコーチは満足そうな表情を見せる。海外勢との実戦経験は、血となり肉となっている。
6月21日に開幕するASPAC(第9回APLUアジアパシフィック選手権大会)では、DSで鍛えてきた成果の一端を見せる場。2年後の世界大会(2021年)を見据え、チームは大学生だけで編成した。あくまで通過点と前置きした上で、テーマをもってアジアの戦いに挑む。選手たちに求めるのは、結果よりも内容。
「落ちたボールをどう奪うか。相手より先にボールを持ち去り、そこからどのように速攻を仕掛けていくのか。守備では追い込み方がカギとなる」
将来を見据えた大会とはいえ、メンバーに選出された大学生たちの表情にはやる気がみなぎっている。
4月7日、DS強化練習での、世代で分けたヤングチーム 対 シニアチームとの紅白戦は白熱した。
一人だけイエローのネットを張ったアタックの選手が目立っていたのは、派手なスティックのせいだけではない。素早いステップでシニア選手のマークを外し、鋭い振りからネットを揺らしていた。立教大のエース、前西莉奈はASPACに向けて胸を躍らせる。
「大会では常にゴールに向かっていく姿勢を見せたいです。アタックのなかで1番、点を取って、私がオフェンスを引っ張っていけたらいいなと思います。圧倒的な存在になりたいので。自分の力がどれくらい通用するのか、いまから楽しみですね」
気負いや緊張などは一切見られない。むしろ、言葉には自信がにじむ。日本代表のユニフォームに袖を通し、国際舞台で戦うことでモチベーションがより上がっているようだ。
「将来、日本を引っ張っていくような選手になりたいんです。日本の女子ラクロスはヤングから変えていかないと」
世界大会の出場経験を持つベテランの高野ひかりも若い選手たちには、積極性を促していた。
「コーチの目を気にして萎縮してほしくはない。失敗を恐れずにプレーしないと。何とかして目立ってやろう、というくらいのマインドでいいんです。チームの求めることを120%でトライしてもらいたい」
気になるのはルール変更の影響か。
主なところでは12人制から10人制、25分ハーフから15分の4クォーター制へ。フィールドプレーヤーが2人減り、試合時間が伸びたことで、一人ひとりの運動量の負担は大きくなる。現役時代、12人制で19歳以下日本代表で、世界大会を経験している宮沢明日香アシスタントコーチも、その点を強調していた。
「単純にスペースが広がった。攻撃のときは、そこをいかに有効に使うか。守備ではハードワークが必要になる。プレー強度も上げていかないといけない」
プレーのクオリティー、若い世代の国際経験、新ルールへの適応など、ASPACでチェックする点はいくつもある。DSは、目先の結果だけで一喜一憂はしない。21年の目標は世界トップ5入り。井川ヘッドコーチはアメリカ、カナダ、オーストラリア、イングランドの牙城を崩し、歴史を変える選手たちを輩出することを誓う。ASPACは、その布石となるはずだ。
Text by ライター 杉園昌之
Photo by 日本ラクロス協会 広報部
杉園昌之(すぎぞの まさゆき) ライター
1977年生まれ。サッカー専門誌の編集記者、通信社の運動記者を経て、現在はフリーランスのスポーツライター。
サッカー、野球、ボクシング、陸上競技、ラグビー、アメリカンフットボールなど多くの競技を取材した。
2019年度よりラクロスの現場にも出向き、コーチや選手への取材をしている。