Columnコラム
2019年度男子・全国強化指定選手活動では、本年2月2日(土)の選考会を経て、下記の通り50名の強化指定選手と2名の練習生を選出いたしました。2019年6月に行われる第9回APLUアジアパシフィック選手権大会、そして将来的には2022年やそれ以降の世界大会に於いて、日本代表として世界のトップクラスの国と伍して戦える選手の輩出を目的とし活動しております。
今回はそんなDSの活動をご紹介をいたします。
ー 男子競技 強化指定選手団 2019年 情報一覧 ー
冷たい雨が落ちる3月上旬。駒沢オリンピック公園総合運動場には、寒さを感じさせないほどの熱気が充満していた。男子のナショナルデペロップメントスクワッドチーム(DS)は立ち上がったばかり。集合できるのは、月に1度の週末2日間のみ。そのわずかな時間を惜しむように、日没寸前まで必死に練習に打ち込む選手たちの姿があった。
2018年に世界大会を終え、その翌年の2019年2月からDS活動をスタート。3月の強化合宿では約50人を招集し、約半数は大学生が占めた。2022年の世界大会を見据え、将来性のある選手たちを鍛えることを主眼を置いている。
平田基樹ヘッドコーチが力を注いでいるのは個人戦術の見直し。
「大学の部活では現場でのコミュニケーションの積み重ねにより、チームをつくっていると思う。それでは効率があまりよくない。やはり、原理原則はある程度、あったほうがいい。これまでは体系化して理解させることをあまりしてこなかったので」
招集された選手たちから「新しいことに取り組んでいる」という感想を耳にしたが、コーチ陣の反応は少し違う。
「指導を受ける選手たちからすれば、新しいことかもしれないが、世界のラクロスを見渡せば、決してそうではない。アメリカでは中高生の頃からやっていること。このDSでは、それをようやくなぞり出したところ」
なぜ、原点から見つめ直したのか。2018年の世界大会がひとつのきっかけだった。平田ヘッドコーチは強豪の北米との差が広がっていることを痛感したという。映像で試合をじっくり観察しながら、列強の進化に日本は付いていけていないと感じた。DSでは最先端の情報をキャッチアップし、いままさに練習に落とし込む作業を行っている。オフェンスとディフェンスに分かれて、細かい連係プレーなどを確認。指導陣から個人戦術のセオリーを徹底して叩き込まれている。
6月21日に開幕するASPAC(第9回APLUアジアパシフィック選手権大会)では、DSで取り組んできた練習の成果が問われる。大学生で構成したチームに求められるのは、内容ある勝利。
「同じ戦術でも、プレーの精度で勝てるようにもっていくのが理想。極端なことを言えば、一生懸命に走られなくても勝てるようにしたい」(平田ヘッドコーチ)
初めて日本代表のユニフォームに袖を通し、国際大会に挑むメンバーも多い。ミドルシュートが得意な一橋大の仲二見篤は「磨いてきた技術が、海外でどこまで通用するのか試したいです」と意気込めば、立教大の佐久山颯人は「大会の得点王になりたいです」と鼻息が荒い。DS活動を通して、経験のある社会人や技術力の高い大学生から多くの刺激を受け、それぞれが成長してきたという。これまでのプレーを見つめ直す機会にもなった。東京大の鍛冶維吹もそのひとり。「自分の課題がはっきりしました。オフボールの動きをもっと向上させたい。そこに気づけたのは大きいです」。立教大の高島遊は「自分の本当の強みと弱みを知ることができました」としみじみと話す。
環境が選手たちを変えたのだろう。ラクロスとの向き合い方が変わってきた。彼らは、DS活動から新しい戦術や高度の技術以上のものを得ているようだ。そして、ASPACで日の丸を背負って戦えることで、モチベーションはさらに高まっている。東京大の成田悠馬の言葉には実感がこもっていた。
「大学の新入生勧誘時に先輩から個人としても日本代表になれるぞと言われたんです。それで、僕は大学からラクロスを始めました。まさか、本当に国際大会に出られるとは思わなかったですね」
アジアの舞台を前に、大学生たちのラクロス競技に注ぐ熱は、また一段と高くなっている。
Text by ライター 杉園昌之
Photo by 日本ラクロス協会 強化部広報担当
杉園昌之(すぎぞの まさゆき) ライター
1977年生まれ。サッカー専門誌の編集記者、通信社の運動記者を経て、現在はフリーランスのスポーツライター。
サッカー、野球、ボクシング、陸上競技、ラグビー、アメリカンフットボールなど多くの競技を取材した。
2019年度よりラクロスの現場にも出向き、コーチや選手への取材をしている。