Columnコラム
2024年8月に本誌上におきまして、FPJ Award2024が発表され(FPJ Award 2024選出チーム発表)、7地区から合計10チームが受賞しました。受賞チームのうち4チーム(4地区)がどのような取り組みをしてきたのかご紹介します(全5回)。
FPJとは、フレッシュマンプロジェクトの頭文字で、エフピージェイと読みます。1998年より開始した公益社団法人日本ラクロス協会の事業で、新入生勧誘活動の促進・ノウハウの蓄積をするために、全国の学生連盟・事務局・指導者・加盟大学が連携を取る組織横断的なプロジェクトです。
第3回 立教大学(女子)の取り組み
関東地区からは、立教大学(女子)(以下、立教)と日本女子大学、東京農業大学(男子)がFPJ Award2024を受賞しました。今回は、「新入部員数が63名」という立教大学の新入生勧誘(以下、新勧)を取り上げます。どんな新勧をしているのでしょうか。
どの規模のチームでも使えるヒントがここにある
新勧試合のチラシ
「新勧を成功させる」というとき、立教にとっての「成功」は何なのか、立教大の2024年度「新勧プロジェクト長」である中村萌何(なかむら もえか)さんにお聞きしました。
「ゴールは、『入部者数60人』でした」。
2024FPJで63人という入部者数があったのですが、これは例年の2倍近い人数だったと言います。
例年の「30人」も、全国的に見ると成功と言える数字で、「立教だからできたことで、自分の大学では使えない方法なんじゃないか…」と心配する人があるかもしれません。
関東FPJ代表・渡辺つむぎさんが立教をFPJ Award2024に選出した理由が、「どの規模の大学・チームであっても、『新しいことを取り入れる』という立教の発想が参考になると思えたからです」と言うように、これから紹介する立教の取り組みは、行動を起こすときのヒントになるのではないかと思います。
「プロジェクト」という考え方
中村さんは、「新勧プロジェクト長」という役職名ですが、そもそも「プロジェクト」とはどういうことなのでしょうか。
「立教では『係制度』を廃止し、『プロジェクト制度』を導入しました」。
以前は、一人につき一つ『係』があったのですが、人によっては、希望に合わない係に配属されることがあったため廃止しました。
いまは、一人が「このプロジェクトを立ち上げます。一緒にやろうという人はいませんか」と募る方法にしています。プロジェクト制にしてから、自主的に新勧に携わる部員が増えました。
新勧プロジェクトには、3年生が10名、2年生が10名の合計20名が携わっています。
役割分担は、①SNS②イベント③グッズ・会計と3つあり、新勧プロジェクト長の中村さんが取りまとめます。
3つの具体的な仕事内容は、①SNSは、インスタグラム・X・Tik Tokの毎日投稿、②イベントは、お食事会・体験会の企画、運営、発注すべて、③グッズ・会計は、新歓グッズのチラシやファイルの発注、個数管理、発生したお金を会計係と連携して精算をする、というものです。
2024年4月新歓予定表
新勧プロジェクトに参加する動機づけ
「新勧をやりたいです」と言える部員がなかなか現れない、というのが他大学の悩みかと思いますが、立教ではどういう動機づけをしているのでしょうか。
もともと大学内で名物になるほど、女子ラクロス部は新勧に力を入れおり、「練習よりも新勧が大事」というが認識を部員全員が持っている、という土壌がありました。
なぜその土壌ができたかというと理由が二つあります。
一つが、「どのような組織なら新入生が選んでくれるのか?」を考えるきっかけ、つまりは、組織変革のチャンスと部員みんなが捉えていというもの。
「プロジェクト制度」ができたのも、組織改革の一つでした。
内政・外交・組織運営の面からも、自分たちを見つめ直すきっかけになる、というのが新勧プロジェクトに自分も携わりたいという動機づけになっているのです。
立教大女子ラクロス部が掲げる理念
もう一つの理由が、立教大女子ラクロス部が掲げる2つの理念の存在です。
立教女子ラクロス部には「ずっと強い立教」と「社会で活躍する女性を輩出する」という2つの理念があります。
「日本一に近づくためのプレーヤーとしての人材」と「立教女子ラクロス部を大きくするために、いろんなプロジェクトを立ち上げる人材」と、ラクロスがうまいだけではなく、多様な人材が必要で、人を集めるためには新勧が大事だよね、ということが、新勧に主体的に携わる動機となっています。
10月から新勧が始まる
女子ラクロス部の「新勧期」は10月から5月くらいまでです。
10月というと、まだリーグ戦やファイナル、全日本大学選手権に向けての活動などシーズン真っただ中といったところですが、この時期は、プロジェクトを募ることと、SNS投稿を始めることで始動します。
チーム全体で新勧に取り組む前に
大学で指定されている「新勧期」は、4月上旬から4月中旬までの2週間で、この期間にイベントを開催します。
繁忙期に入る前には、「今年はこういった目的で新勧を行います」とプロジェクトチームが発表し、ヘッドコーチの佐藤壮さんからも新勧に関する話があるなど、部員全員で新勧について話せる「新勧ミーティング」をします。この新勧ミーティングで、チームの意識を統一しているので、体験会のためにグランドを空ける(練習がストップする)ことに対し、誰からも文句が出ることはありません。
ヘッドコーチ佐藤壮さんも、新勧にしっかり関わります(右)
「お食事会」
繁忙期の2週間、プロジェクトチームは、ラクロスの練習に行けないほど忙しくなります。準備に追われるほど大きなイベントの一つに「お食事会」があります。
2024年度は、キャンパスがある池袋と新座の2箇所で1回ずつ開催しました。
内容は、「新入生と部員とでお話をする」ということがメインなのですが、この「お食事会」は、とても戦略的に行われています。
「テーブルの位置を新入生の興味度で分けたり、学部ごとに分けたり、新入生に一人ずつ部員を付けるときも、相性がよさそうな部員にするよう心がけています」(中村さん)。
お食事会のチラシ
戦略的な新勧とは
「お食事会」だけでなく、全体的に戦略的な新勧を行っていると中村さんは言います。どういったものなのでしょうか。
「経営学と心理学を持ち合わせて新勧をしました」。
経営学では、「購買意欲の原理」を用いました。
人が何かものを買う時、①認知②興味③行動④連想⑤確信といった5段階の心理状態があります。「商品を認知し、買おうと確信するまで」の過程を、「新入生が、女子ラクロス部を知り、入部するまで」に置き換えました。
- 認知は、SNSを毎日更新することで「女子ラクロス部」が目に入るようにする。
- 興味は、学内に新勧ブースを設置し、直接人と話せるようにする。
- 行動は、体験会に来てもらう。
- 連想は、お食事会で「この部に入ったらこうなるんだろうな」という像を見せる。
- 確信は、最後の一押しをする、徹底的に寄り添う。
というような戦略を練ったのです。
心理学では、「単純接触効果」という恋愛心理学を用いました。会う回数が増えると自然と好きになるというものです。
接触回数を増やすために、SNSの毎日更新と、新入生へのLINE送付など「わたしたちはあなたに興味があるよ」と伝わるように、体験会ごとに、個別に新入生にメッセージカードを渡すこともしました。
もう一つ「返報性の原理」も用いました。
相手から何かを受け取ったときに、こちらも同じようにお返しをしないと申し訳ないという気持ちになる心理効果のことです。
経営学と心理学を取り入れ戦略的に新勧を行ったことで、イベントの集客につながったと中村さんは振り返ります。
お食事会風景
コロナ禍ではできなかった
「お食事会」について、池袋と新座といった2つのキャンパスで行えたのはコロナ禍後では初めてのことでした。
中村さんが入学した2022年はまだコロナ禍の影響で「お食事会」が解禁されておらず、去年2023年は1回開催できました。
2024年度にようやく両キャンパスで開催できたのですが、具体的に何人が「お食事会」へ参加したのでしょうか。
「50人ずつくらい来てくれたらいいかなと思っていたところ、両キャンパスとも80人ずつくらい参加してくれました」(中村さん)。
戦略的新勧が功を奏したのです。
ところで、「お食事会」の座席配置など、プロフィールの徹底管理により考えていると言いますが、そもそも新入生の情報はどうやって得ることができたのでしょうか。
「新入生はいくつかのルートでラクロス部へ接触するのですが、それぞれ、いつどのルートで接触し、部員の誰と連絡先が繋がっているかという情報をスプレッドシートへ部員が打ち込むことで共有していました。何回体験会へ来てくれたかといった回数や、興味度もこのスプレッドシートに打ち込まれています。そのデータを元に次の体験会では、どんなメニューを組んであげようということも考えていました」。
基本的には、新入生の担当になった部員が情報を得ており、ずっと同じ部員が同じ新入生を担当しますが、学部などで別の部員のほうがよさそうだと新勧プロジェクト側で判断すると、別の部員に情報を引き継ぐこともあります。
引き継ぎは、LINEノートに「新勧カルテ」というものがあり、そこに新入生の名前・出身地・スポーツ歴・学部・ラクロスへの興味度・どういう性格かなどが書かれているので、それを事前情報として次の担当部員に引き継ぐのです。
お食事会での名札
わたしもこういう先輩になりたい
新勧プロジェクト長だった中村さんですが、自身が新入生のときにラクロス部へ入部するきっかけは何だったのでしょうか。
「立教のラクロスが強いということと、カレッジスポーツで始めやすいというのもありましたが、一番は新勧で出会った人の魅力でした。他の団体にも行ったけれど、こんなに一人ひとりに親身に寄り添ってくれる団体は他になかったです。わたしもこういう先輩になりたいし、ここの組織なら誇れる4年間になりそうと思って、ラクロス部へ入りました」。
自分の部活のいいところを見つめ直すきっかけ
チームとしてのゴールは「新入部員数60人」というものでしたが、中村さんの新勧プロジェクト長として個人のゴールは何だったのでしょうか。
「わたしとしては、部員がこの組織に入ってよかったなとか、この組織の魅力を見つめ直すきっかけになったなとか思ってもらいたいと思っていました。わたし自身も、新勧を通して、うちの部活って、こういうところがいいよねとも何度も実感しました。新勧というのは、自分たちの魅力を語ることだと思うのですが、当たり前になっている日常を、新勧を通して価値のある活動(ラクロス)をしているんだと多くの人に気づいてほしいと思いながら活動していました」。
2025FPJに向けて
2025FPJに向けて、立教では既に2024年10月19日に第1回目のSNSへの投稿がなされ始動しています。
立教はこれまで、「30~40人が入部してくれたらいい、多くて50人入ってくれたら嬉しい」という新勧が続いていました。
それが2024年度は「63名」。2025FPJに向けて、この人数はどう影響していくのでしょうか。
中村さんは「部員は多ければ多い方がいいなと思えた」と言います。
リーグ戦で応援席が紫(立教ユニフォームの色)に染まったのを見て、フィールドの選手からも「応援が力になった」と言われました。
数で圧倒する偉大さを感じたことが「多ければ多い方がいいな」と思えた理由の一つです。
また、63名いる今の1年生が、今後2年生、3年生になり核になっていくときに、どんなプロジェクトが生まれるのだろう、と楽しみであると言います。
「人数がいることで、外へ外へ広がり、内へ内へ濃く深くなっていく様子を見てみたいです」。
新勧で一番大事なことは「自分たちを見つめ直すこと」
2025年度に向けて、新勧に関わる全大学生へがんばろうと思えるようなメッセージを中村さんにお願いしました。
「新歓で一番で重要なことは 自分たちの組織を見つめ直すことだと思います。新入生を勧誘するとなると、外側へ目が向きがちですが、自分たちの組織を見つめ直して、しっかりと戦略を練ることが重要だと思います」。
人数が少ないチームだと、練習メニューや戦術を考えるだけで手一杯になるかもしれないけれど、と慮りつつ、中村さんは自分たちの組織を見つめ直すための時間を取るべきと言います。
更には、「他大学の方でも何か新勧で困ったことがあれば、相談に乗ろうと思っています」というありがたいメッセージまでいただきました。
新勧を楽しむヒントを探してみて
2024年度関東地区FPJ代表の渡辺さんにもメッセージをお願いしました。
「新勧というと、まだまだやらされている、やらなきゃいけないものだからやっているという人が多いと思いますが、楽しんでやってほしいと思っています。楽しんでいる姿は1年生に伝わり、魅力的に感じてもらえるものです。楽しむための心の持ち方として、立教の取り組みはヒントとなると思います。新入生は数か月前まで高校生でトレンドに敏感だから、トレンドを取り入れてみたらおもしろいんいんじゃないかなど、新勧をお祭りのようにとらえて楽しめたら、新勧の立ち位置が変わって来るのではないでしょうか。ラクロスの魅力を1年生にも伝えたいというのがモチベーションのある人が新勧に携わると、チームも変わっていくと思います」。
部員が新勧を楽しんでいることが伝わる立教のお食事会の様子
【立教大学女子ラクロス部 SNS紹介】
新歓インスタ:https://www.instagram.com/ultimates_shinkan_2025/
メインインスタ:https://www.instagram.com/rikkyo_wlacrosse/TikTok @rikkyo_ultimates
X:https://x.com/ultimatestplax
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC3znedM1M7LZq_wl7IxUl1A
次回は、中四国地区受賞チームの島根大学(男子)を取り上げます。
プロフィール
名前:中村 萌何(なかむら もえか)
チーム名:立教大学(女子) 学年:3年生 役職名:新勧プロジェクト長 |
名前:渡辺 つむぎ(わたなべ つむぎ)
チーム名:東洋大学 学年:4年生 役職名:FPJ代表(関東地区) |
【FPJ 関連ページ一覧】
Grow The Game~あかつきカップ出場校のチーム作り〜 第1回:名城大学編
Grow The Game~あかつきカップ出場校のチーム作り〜 第2回:慶應義塾大学編
機関誌「LACROSSE MAGAZINE JAPAN 2023-2024」
写真提供 立教大学女子ラクロス部
Text by 日本ラクロス協会広報部 岡村由紀子