Columnコラム

FPJ Award 2024 受賞チームの取り組み〜京都大学男子編〜

 


2024年8月に本誌上におきまして、FPJ Award2024が発表され(FPJ Award 2024選出チーム発表)、7地区から合計10チームが受賞しました。受賞チームのうち4チーム(4地区)がどのような取り組みをしてきたのかご紹介します(全5回)。


FPJとは、フレッシュマンプロジェクトの頭文字で、エフピージェイと読みます。1998年より開始した公益社団法人日本ラクロス協会の事業で、新入生勧誘活動の促進・ノウハウの蓄積をするために、全国の学生連盟・事務局・指導者・加盟大学が連携を取る組織横断的なプロジェクトです。

第2回 京都大学(男子)の取り組み

関西地区(※)からは、京都大学(男子)(以下、京大)と大阪体育大学(女子)がFPJ Award2024を受賞しました。今回は、「新入部員数が関西一だった」という京大の新入生勧誘(以下、新勧)を取り上げます。どんな新勧をしているのでしょうか。

 

関西地区を取り上げる今回、本文中の学年の表記を「○回生」で統一します。関西特有の「○回生」は東京帝国大学(履修学年重視・○年生)と京都帝国大学(在籍年数重視・○回生)の違いから生まれ、京都帝国大学卒業生が講師となった関西の大学で定着したという説があります。

ゴールは目標人数を達成することではあるが

「新勧を成功させる」というとき、京大にとっての「成功」は何なのか、京大の2024年度「新勧隊長」である永井椋也(ながい りょうや)さんにお聞きしました。

「ゴールは、具体的な人数を決めて、その人数を達成することです」。

選手・スタッフを合せて約40人が入部という「関西一の新入部員数」を誇った京大は、確かに「新勧成功」で、FPJ Award2024を受賞するにふさわしい「結果」を得てはいます。しかし、受賞理由はそこではなく、目標達成までの「道のり」にありました。

関西地区の男女合わせて57チームを見てきた関西FPJ代表・中島優人さんは、京大の新勧に対する意識について、このように評価しています。

「京大には『日本一』というチーム目標があり、その目標を達成するためには、新勧が重要であることを全員が認識しています。新入部員が今年の『日本一』に直結しなくても、未来の『日本一』に関わる。だから、いま全員で新勧をしなくてはいけないという共通認識が4回生にも下回生にもある点がとても素晴らしいと思いました」。

新勧隊長はこう決まる

新勧中の永井さん

「新勧隊長」は毎年3回生が就くのですが、「新人委員」が「新勧隊長」になると決まっています。

「隊」というからには、組織で動いているのですが、どのような構成なのでしょうか。

「同じ3回生から副新勧隊長が自薦他薦で選出され、3回生2人がメインで新勧を取り仕切ります。そこに前年の新勧隊長と副新勧隊長だった4回生がサポート役として加わってくれます」(永井さん)。

2024年度に新勧隊長だった永井さんも、2025年度ではサポート役に回ります。

このシステムのおかげで、コロナ禍(2020年~2022年)でも、京大内ではFPJ文化が途切れることはありませんでした。

主将はずっと巻き込めている

2024FPJでは、「(チームに影響力のある)主将を巻き込もう」というスローガンがありました。京大では主将を巻き込めたのでしょうか。

「もともと、主将も副将も新勧が大切だと分かっているので、(新勧隊長である)自分が何か働き掛けなければならないことはありませんでした。新入生の多さは勝ちにつながる、だから新勧はしっかりやるもの、みんなでやるものという意識は代々受け継がれています。2024年度で新たに加えたことと言えば、主将にチームに向けて、新勧に関する発言をしてもらったことくらいです。主将が発言したことで、より部員の意欲は湧いたとは思います」(永井さん)。

京大の「お祭り騒ぎ」はこれだ!

2024FPJでは「お祭り騒ぎを巻き起こそう」というスローガンもありました。京大ではどんな「お祭り騒ぎ」が繰り広げられたのでしょうか。

永井さんのよると、『ラクロスミニゲーム大会』がお祭り騒ぎで、京大の全新勧のうちでも1-2位を争う規模なのだそうです。

新入生の間では「この新勧にはいっておいたほうがいい」と言われる知名度になっており、2024年度はSNSアカウントを通して300人弱の応募がありました。

「ただ、たくさん集めすぎてミニゲームに出られなかったということがいないように、自分たちのキャパを考えて参加人数は決めています」(永井さん)。

2024年度は最終的に男女合わせて約200人が参加しました。

入部へつなげるには「ごはん」タイムが大事

ラクロスミニゲーム大会への参加から実際にラクロス部へ入部するまで、どのような過程を経ているのでしょうか。

「(自分たち部員も新入生もラクロスを)どんな人とやりたいか、が大切になってくると思います。だから、ミニゲームよりも、そのあとのごはんタイムを大切にしています。ごはんのときに新入生とたくさんしゃべることで、ラクロスを一緒にやりたいと思ってもらえるようにしていきます」

永井さん自身も新入生のとき(2022年4月)、新勧イベントで初めてラクロスを知りました。当初は「ラクロス部に入ろう」と思って参加したわけではなかったのですが、先輩方と話をしているときに直感で「入部しよう」と決めたそうです。

「どんな気持ちでラクロスをしているか」という先輩の話は、新入生の心に響くのです。

練習と新勧イベントとのバランス

新勧も練習と同じくらいチームの強化にとっては必要なことですが、京大ではどのようにバランスを取っているのでしょうか。

「練習の場所に、新入生に来てもらうことで練習と新勧を同時進行させていました。だから、新勧シーズンに練習を完全にストップするということはなかったです。ラクロスミニゲーム大会以外で新入生がラクロスに触れることができるのは朝練でした。朝練と同じグラウンド内の別のスペースを使って、練習する部員と新入生のラクロス体験会に対応する部員とに分けていました」(永井さん)。

スプレッドシート活用法

入部までの道のりとして、スプレッドシートで情報を部内で共有したことも新勧成功に有効な手段だったと永井さんは言います。スプレッドシートで1000人近い新入生情報を部内で共有していました。

そもそも、新入生情報をどうやってスプレッドシートへ吸い上げることができたのでしょうか。

まず、新勧イベントに参加してくれた新入生一人につき一人の部員が担当として就き、新入生と連絡先を交換します。担当部員は1対1で話をしたときの情報をスマホに記録しておき、その記録をスプレッドシートへ入力することで部員全員と情報共有しました。

このスマホに記録されている情報のなかには、名前や連絡先だけではなく、新入生がどれほどラクロスへの興味があるか、何をおもしろいと思うタイプかなどといった「内面」情報も含まれています。

では、新勧隊長・永井さんはこのスプレッドシートにある情報をどう活用していたのでしょうか。

「担当部員には、新入生の入部する意欲の度合いをABCで入力してもらっていました。『B』は『ラクロスにちょっと興味がある』という新入生のことなので、意欲『B』の新入生の気持ちをどうラクロスへ持って行くかが大事になってきます。その新入生の担当部員に、もうちょっとコミュニケーション取ってもらっていいかな、など指令を出してきました。入部意欲をABCで『見える化』してもらったのはとても有効でした」。

京大の新入生の特徴としては「高校までまじめに勉強をしてきた人が多い」と永井さんは言います。

「勉強への熱量をラクロスに向けるように持って行くと、新入生には刺さりやすいです」(永井さん)。

それぞれの大学で、「うちの大学へ入学する学生はこういったタイプが多い」だから「こういう言葉が刺さる」という分析も、新勧のよい材料になりそうです。

2025年度新勧に向けて

FPJ Award2024の受賞チームも決まり、2024FPJは一旦活動終了となっていますが、京大では、2025年度に向けて何か準備を始めているのでしょうか(2024年9月末取材時現在)。

「引き継ぎの資料を作って、既に決まっている2025年度の新勧隊長に渡したことが準備ですかね。チーム全体で本格的に動き出すのは、2月終わりくらいからです」。

新勧隊長が9月時点で決まっていることと引継ぎ書がきちんと作成され引き渡されていたことが2025年度へ向けた「準備」ですが、この「引き継ぎシステム」が構築されていることと代々「チーム全体で新勧をする」意識が引き継がれていることこそが壮大な「2025FPJへの準備」と言えます。

賛同してくれる仲間を見つける場

新勧隊長・永井さんから全国の大学生に2025FPJに向けてのメッセージをいただきました。

「自分が力を注いでいることに共感してくれる仲間がいるということは、学生生活をより充実させてくれます。新勧という手段がなければ、自分のやっていることに賛同してくれる仲間を見つけることは難しい。チームごとに目標は違うと思いますが、どんな目標であったとしても仲間を見つけることが大切なので、新勧を是非がんばってもらいたいです」。

結局、新勧は「ラクロス」そのもの

2024FPJでは「時間・労力ともFPJに全ベットした」と言い切るほどに関西地区のFPJに力を注ぎ、全57チームに寄り添ったFPJ代表の中島さんからも全国の大学生へ向けてメッセージをいただきました。

「新勧というのはラクロスそのものだなと思います。ラクロスをしていないのに新勧が成功する、ということはありません。まずは自分がラクロスを一生懸命やればいいと思います」。

中島さんがこう思うに至る印象的な事例があります。

関西のある女子大には部員が一人しかおらず、関西FPJ代表のなかで「彼女が卒業したら、もうこの大学のラクロス部は廃部になるのだろうな」と思っていたと言います。

それでも、中島さんは彼女へのアドバイスとして、(入学式シーズン前の)冬の間に、「自分がなぜラクロスをやっているのか、ラクロスをすることにどれだけの価値があるのか考えて、ラクロスに一生懸命取り組んでみよう」と伝えました。

ラクロスをしている意味について自分なりに考え言語化した結果、4月に「女子大で」「一人しかいない」ラクロス部に3人の新入部員があったといいます。

言語化された熱意は、人を動かす力になるのです。

「目先の数字を見て『どうやって達成させようか』だけを考えるのではなく、『なぜ自分はラクロスをやっているのか』を考え、ラクロスに本気で打ち込むことが結局は人を動かし、数字に繋がっていくと思います。新勧成功のためにアドバイスするとしたら、『本気でラクロスに向き合うこと』だと思います」。

 

次回は、関東地区受賞チームの立教大学(女子)を取り上げます。

 

プロフィール

名前:永井 椋也(ながい りょうや)

チーム名:京都大学(男子)

学年:3回生

役職名:新勧隊長

 

名前:中島 優人(なかじま ゆうと)

チーム名:京都工芸繊維大学(男子)

学年:4回生

役職名:FPJ代表(関西地区)

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機関誌「LACROSSE MAGAZINE JAPAN 2023-2024」

 

Text by 日本ラクロス協会広報部 岡村由紀子

 

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