Columnコラム

【Inside JLA】日本のラクロスはどこへ向かっていくのか。〜日本ラクロス協会最高戦略責任者(CSO)、安西渉インタビュー〜(後編)

この記事は、2回にわたるインタビュー記事の後編になります。まだ、前編を読まれてない方はそちらもどうぞ。

前編はこちら

 

————–安西さんはコーチとしてのご経験も豊富と伺っております。コーチという立場でラクロスの価値向上に貢献していくためにはどうすればいいのでしょうか。

 

日本のラクロス界では、まだ明確に「コーチとはかくあるべき」というイメージが定まっていないように思います。コーチ側も、チームと選手側も、色々試行錯誤しながらやっていると思います。

いいコーチの定義には色々あると思うのですが、私は「選手自身が自分で考えて試行錯誤しながら、上手く・強くなっていくためのサポートを、どれだけ的確に、効率的に行えるか」だと考えていて、私が指導する時には、大前提として選手たちにそのことをよく理解しておいて欲しいと考えています。

なので、私がコーチングにおいて一番大事にしているのは、「原理・原則」をちゃんと定め、理解してもらうことなんです。そこが共有できていれば、一時的に期待するのと別の方向に成長してしまったり、迷ったりしてしまっても、少ないアドバイスと気付きを与えるだけで、選手たちが勝手に軌道修正してくれるようになります。

「ティーチングとコーチングの割合」について悩むケースはよくあり、ティーチングをゼロにすることが本当に良いとは限らないと思っています。特に「原理・原則」の部分は、試行錯誤するよりも歴史やドキュメントから学んだ方が早いので、なるべく早いうちに教えてしまった方が良いケースも多いと思います。特に4年間、もしくは1年間という限られた中では。しかし大前提として、自らが意思決定をして課題を解決していくプロセスにこそラクロスの価値があるし、またラクロスという「実際にフィールド上で相手に向き合っている選手自身が瞬時に考え、判断・行動しなければならないスポーツ」においては、結局そっちの方が早く成長する、とも考えています。

 

————–なるほど。立場を変えて、選手という立場での価値向上の仕方についても伺いたいのですが、いかがでしょうか。

 

これも、正解のない問いですね。選手が価値を出せる機会は大きく、①試合でのパフォーマンス、②練習や日常生活におけるパフォーマンス、の2つがあると考えています。

①を観客視点で考えたときの「試合の面白さ」というのは本当に多種多様で、「派手で点がたくさん入ること」が面白いと感じる人もいますし、「絶対に勝ちたい1戦を落とさないために、先行して後は超保守的に時間を消費する」というのも、背景が分かればスポーツの面白さの一つとも言えます。どちらの場合にせよ、「ルールに従った上で全力で勝ちに行く姿」がラクロスの価値につながるのかな、と思います。一方①を「ラクロス界に与える価値」という視点で考えるとまたちょっと違ってきて、変化しチャレンジする姿勢が、日本のラクロスを成長させていくんだろうな、とも思います。

ラクロスの場合は②がとても大事だと思っていて、前編でもお話した通り、ラクロスの価値は、試合以外の場所で生まれる部分も多いと思うんです。2023年の男子日本代表が「Be a good Sport Citizen」というコンセプトを掲げていますが、「自分がラクロスをすることで、社会にどんな価値が与えられるんだろう?」ということを少しでも考えられる選手が増えていくといいなぁと思っています。

私は、JLAはできるだけ選手がチャレンジし易い仕組みとプラットフォームを整備していくのが良いと思っていまして、例えばリーグ戦の試合数や、細かいルールなど、常に見直していきたいと考えています。

 

————–時代に合わせて柔軟に「変化」させていく必要があるということですね。

 

はい。ラクロスの世界はまだ歴史が浅いこともあり、他のスポーツに比べると変化のスピードが早いと思います。この15年位で、大学選手権が始まり、試合時間が短くなり、女子の試合人数が10人になり、男女ともに何度かルールが変わり、と目まぐるしく変化しています。

また、大学チームにおいては「誰でも平等に日本一を目指せる環境」を整えていくことが今までの日本ラクロスの在り方だったのですが、もしかすると今後はそこも変わっていく必要があるのかもしれません。

例えば、ITツールを用いた練習や試合の分析が多くの大学で取り入れられていますが、それが追い風になっている大学もあれば、さまざまな事情からそうはならない大学も存在します。ITリテラシーや、機材やツールを揃える財力、分析ノウハウが、勝つための1つの「要素」になりました。他にも、OBG会の活性度、大学の規模、スポーツを志向する学生の数、協賛企業の有無、グラウンドや設備の充実度など、純粋な「競技力」以外の競争要素が増えてきています。勝つためにできることが増えたと捉えられることができる一方で、格差がどんどん広がっているのだ、捉えることもできます。「平等と公平」の両軸で考える必要があり、例えばNCAAのようなディヴィジョン制を取り入れることも一つの選択肢かも知れません。

 

————–コロナ前と比較して、やはり会場に足を運んでいただける人の数は減っているように感じているのですが、現場に人が集まるために私たちがするべきことはなんでしょうか?

 

一昨年から、Japan Lacrosse Liveの運用が始まっていて、全日本大学選手権や全日本クラブ選手権などの試合は、オンラインでも高いクオリティで観戦することができるようになりました。

しかしその影響もあってか、実際に会場に見にきていただける観客の総数は2022年は減ってしまいました。これは一つには、Japan Lacrosse Liveが提供するコンテンツのクオリティが高いこともあると思いますが、それよりも、コロナ禍を過ごしてきた学生たちはそもそも現場に足を運ぶとどんなにいいことがあるのか知らない、ということが大きいと思っています。

オンラインでの観戦は観たら終わりですが、試合会場は「そこから生まれる何か」を持っている場所です。会場で久しぶりに会った人と何か次のアクションが生まれたり、試合を「一緒に」観戦することで得られる関係性や、画面越しには分からない選手の細かな機微などは、オンラインでは決して得ることはできません。

ですから、まずは騙されたと思ってでも良いので、一度会場に足を運んでもらいたいと思っています。そこで生まれた出会いや関係性が、次にまた会場に訪れる理由になると思います。

 

————–最後に、今年2023年日本ラクロス協会として大事にしていきたいと思っていること、変化させていきたいと思っていることについてお伺いしたいです。

 

ちょうど最近、今後のコロナ禍での活動に関する方針を発表させて頂いたのですが、2023年で大きなテーマになるのは「現場への回帰」です。

ここ数年新型コロナウイルスの影響でオンラインでの活動を余儀なくされてきましたが、その制限はなくなりつつあります。

ラクロスの世界は常に「現場」が存在していて、そこに人が集まることで成立している世界です。現場においてさまざまな気づきや出会いがあるからこそ、日本のラクロスにおける価値が最大化されていくと思っています。

2年半という期間、現場がほとんど動かなかったというブランクはとても大きくて、今まで現場がそこにあったから動き続けていたたくさんの歯車が、このブランクによって止まってしまったんですよね。

ですから、歯車が回っていた時のことを知っている大人たちが旗を振り学生たちを勇気づけて、止まってしまった歯車を再び動きださせるような取り組みが必要不可欠だと思っていて、過去の素晴らしかったことを再現しつつも、今の時代にあった新しいエッセンスも取り入れて、新しいラクロスの世界を創っていきたいと思っています。

 

Text by Lacrosse Magazine Japan 編集長 佐野清

 

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