Columnコラム
「スポーツの新しい形」を目指しアップデートを続ける日本ラクロス協会(JLA)。
“Inside JLA”ではJLAの活動の舞台裏に迫ります。
Inside JLA 2022 | vol.3:「最高のスタンド」を合言葉に掲げるリレーションズチーム 東大ラクロス部の挑戦
プロアマ問わず「スポーツと社会の関係性」が大きく変わりつつあります。そんな時代に「最高のスタンドを作る」を合言葉に始まった東京大学ラクロス部男子のリレーションズチーム。有志のOBと学生が起点となり始まったリレーションズチームは、学生スポーツと社会が相互に価値を与え合う関係性を目指し活動しています。2021年度には、その活動の一つの成果として発足初年度ながら2社とのスポンサーシップ締結を実現しました。また、スポンサー企業との連携や広報活動を担当する学生チームには、学年を問わず現役学生が参画し、社会人OBと現役学生が共同でリレーションズチームを活性化させています。
学生チームならではの価値を社会に提供し、社会がそれに応える。社会と学生チームがお互いの価値に共感し高め合うサイクルを実現しようとするリレーションズチームの舞台裏に迫ります。
チームとファン、一方通行ではない関係性がつくる「価値のサイクル」
− リレーションズチームの取り組みは他大学で類を見ない画期的なものだと思いますが、どういったきっかけで始められたのでしょう。
宇佐見(東大ラクロス部リレーションズマネージャー):私自身、大学卒業後もラクロス部のサポーターとして個人的には関わり続けていました。その頃、いろいろなスポーツを見ていて、スポーツが人や社会にもたらすものや、関わる全ての人の感情を動かす力を感じていました。そんな折に、チームの社会人コーチをしていた後輩からもう少しチームに深く関わらないかというお話をいただきました。そこから、中長期的なコミットを前提に、チームとして自分たちにできることややりたいことを考え始めたことがきっかけです。
今は「最高のスタンドをつくろう!」を合言葉にして活動しています。私自身が現役時代に目にした、スタンドが青に染まった光景が心に残っていて、応援してくれる方々とチームが相互に良い影響を及ぼしあえるような活動をしていこうとがんばっています。
− 「ファンとチームとの相互の関係性」というと、具体的にはどういった関係を作ろうとしているんでしょうか。
石川(東大ラクロス部主将):2021年の1年間、コロナ禍ということもあり会場に応援に来ていただくことは叶いませんでしたが、応援してくださる方々が気持ちの面でも物資の面でもサポートしてくださり、チームの強さに直結していたと感じました。同時に、僕たちが成長し試合で勝ったり成果を出したりするとさらに応援してくださる方も増えていきました。また、学生チームだからこそ提供できるリソースもあると思っていて、企業や地域の方々に徐々に恩返しできているように感じます。
宇佐見:私自身が地元のサッカーチームのファンで、たびたび試合観戦にも行っているのですが、やはりスタジアムというのは特別な場所だと感じます。ファンにとっては日常の中で情熱を解き放ち、リフレッシュできる場所。そして選手にとってもスタジアムを埋め尽くすファンに応援してもらえることは間違いなく力になります。これはプロスポーツだけでなく学生スポーツでも同じだと感じていて、母校のラクロス部でも「最高のスタンド」を作ろうと決意しました。私は、東大の現役生や卒業生、そのご家族、東大の近所の方々など、ほんの少しでも繋がりのある人であれば「東大の部活を応援してくれる理由はある」と思っていて、リレーションズチームの活動の先で、いつかはそういった方々が週末に足を運びたくなるスタンドをつくって、選手とともに素晴らしい体験をする。そんな文化が育っていったらいいなと思っています。
石川:プレイヤーとして試合に出ていて、数センチの距離、コンマ数秒を争う局面で、スタンドの歓声が最後の一押しになってくれたことがたくさんあって、「応援」は気持ちだけでなく勝ち負けにも直結するものだと今は確信しています。
− チームとファンが、一方通行ではなく互いに支え合う関係性は素敵ですよね。
宇佐見:企業とのスポンサーシップにおいても相互に価値を与え合う関係性を目指しています。現在、多くの学生チームにおいて「企業にお願いしてスポンサー提携をしていただく」という構図が見られます。ただ僕たちは、学生が一方的に享受する立場にいるのではなく、僕たちのビジョンに共感し、僕たちが提供できる何かに価値を見出してくれて、魅力を感じてくれた企業とスポンサーシップを締結するようにしています。
スポンサー企業のロゴが掲載されたヘルメットを用いる選手
石川:東大ラクロス部を中心に、大学や保護者、OBといった方々や、地域の飲食店や企業の方々など、すべての繋がりを「リレーションズ」として、互いに支え合い成長していく「価値のサイクル」を生み出していきたいという思いがあります。
社会のダイナミズムを肌で感じる場所
− 角田さんは2年生ですが、リレーションズチームにおいても軸となる役割を担っています。実際 に活動されてみてどういった印象がありますか?
角田(東大ラクロス部):リレーションズチームの活動をしていると、宇佐見さんなどチームに関わってくださっている社会人だけでなく、ステークホルダーとなるスポンサー企業の社会人の方々とも必然的にコミュニケーションを重ねることになります。部活動をしていると外の世界に目を向ける機会が少なくなりがちですが、リレーションズチームの活動のおかげで社会のダイナミズムを肌で感じることができます。ただの窓口係ではなく、企業の方がどうしたら気持ちよく応援してくださるか、どうしたら僕たちの思いを伝えられるか工夫する必要がありますし、その過程で社会の仕組みが若干ながら見える時もあり、とても学びが多いです。
東京大学運動会ラクロス部男子
宇佐見:学生の、特に下級生のうちから社会と関わる機会はとても大切だと思っていて、私自身引退後に部活の先輩の会社で長期インターンをしている時に社会の解像度がぐっと上がった実感があります。運動部だと4年生まで部活動を頑張って、そこから短期間で就職活動をする学生が多くて、選択肢がたくさんあることに気づかないまま社会に出てしまうことがとても勿体ないなと思っています。
キャリアの選択は学生にしろ社会人にしろいつかぶつかる瞬間がきますが、それまでの出会いの総量が選択肢の幅を広げて、その後の人生の豊かさにも繋がってくると思っています。だから、角田君を始めとする現役メンバーがリレーションズチームの活動をする中でスポンサー企業であるスタートアップと深く交流して、スタートアップならではの熱量や勢いに触れていることもリレーションズチームの活動の意義の一つだと思います。
石川:先日部員数名でチームを支援してくださっているGPSSグループさんとレバレッジさんのオフィスを訪問させていただいて、会社の取り組みやビジョンについてお話を聞く機会がありました。オフィスの雰囲気だけでなく、スタートアップの経営者の方が何を考え、何を目指しているのかといった話は全く聞いたことなくて、新鮮でした。入部してからずっとラクロス以外のことにも視野を広げようと努力していたのですが、結局同じフィールドにとどまったままで。こうやって直接、かつ深く社会と繋がることは視野も広がるし、そういった経験が巡り巡ってチームの成長にも繋がると思います。
チームの練習着にもスポンサー企業のロゴが掲載されている
− 今回はユニフォーム広告が企業との接点になりましたが、広告掲載は目的ではなくあくまでツール。活動を通じて、学生と企業が相互に価値を提供しあって、学生が社会とより深く繋がってほしいという思いがあります。
石川:今はまだリレーションズチームは人数も少なく、チーム内でもようやく浸透し始めてきている段階です。角田や僕を含め現役部員が貴重な経験をさせてもらっているので、ほかの現役部員にも機会を作りたいですし、「なぜリレーションズチームがあるのか。何を目指しているのか」ということについてもっともっと理解してもらえるようお互いに努めなければなと思っています。
宇佐見:今年度は2社のスタートアップからご支援いただくことができました。ただ、石川君も言った通りリレーションズチームの活動の本質的な価値について、部内のみんなにもっと腹おち感を持ってもらう必要があります。他にも、いただいた協賛金をシーズン中に有効活用したり下の学年に引き継いでいく体制がまだ整っていなかったりするので、そういった課題を解決しながらチームの価値向上と、チームを中心としたリレーションズの関係を深めてけるよう活動していこうと思 っています。
編集後記 – JLAのビジョン
vol.1の神戸大学の記事でもご紹介しましたが、ラクロス協会に所属する全チームにおいて、公式戦でユニフォームへ広告を掲載することが可能となりました。広告掲載の解禁をきっかけに、周辺地域の飲食店や企業とコンタクトをとるなど、社会との接点を増やし、強めるチームが増えていくことが予想されます。
東京大学ラクロス部男子の場合、そういった社会との接点や保護者、OBといったファンなど、チームを取り巻くすべての繋がりを「リレーションズ」とし、関係構築・発展に特化したユニットを組成しています。リレーションズチームは現役部員に加え、OBやコーチなど、年齢の垣根を超えたメンバーが参画していることも特徴で、幅広い属性のメンバーが毎週打ち合わせをし、チームの価値向上に向け活動しています。
現役学生が主体となって運営に携わり、部活動に取り組みながら社会のダイナミズムを肌で感じることができるリレーションズチームの活動。大学と就職後の社会人生活を切り離して考えるのではなく、人生の連続性を常に意識し、未来の選択肢を増やすことに繋がっています。