Columnコラム
「スポーツの新しい形」を目指しアップデートを続ける日本ラクロス協会(JLA)。
”Inside JLA”ではJLAの活動の舞台裏に迫ります。
Inside JLA 2021 | vol.2 : 学生チームでもユニフォームに広告掲載 神戸大学が語る実践例
ラクロスではユニフォームへの広告掲載が解禁となり、初年度である2021年シーズンでは6チームが実現。なんと学生チームでも3チームがいち早く企業とスポンサーシップを締結し、広告が掲載されたユニフォームでシーズンを戦っています。実現へ向けては学生が主体となり、大学と連携しながら企業からの応援を取り付けています。神戸大学女子ラクロス部も成功事例の一つ。神戸市を拠点に自動車教習所を運営するリエゾンドライビングスクールとスポンサーシップを締結しました。今回は神戸大学女子ラクロス部の久保本さん、同大学職員の北山さん、奥村さん、リエゾンドライビングスクールの近藤さんに、スポンサーシップ締結までの舞台裏を語ってもらいました。
学生スポーツへのスポンサーシップ 学生・大学・企業三位一体の取り組み
− なぜ今年度スポンサーシップ締結をされたのでしょうか。
久保本(女子ラクロス部):ここ数年で部員数が減り、部費の工面などが難しくなっていました。一人暮らしで学費などを自分で負担している部員も多く、部費の負担を少しでも減らすことはできないかと考えていたんですね。リエゾンドライビングスクールさんは部員が多く通っていましたし、親しくさせていただいていて、もともとご支援のお話しをいただいていたので、ユニフォーム広告解禁の知らせを聞いて正式にスポンサー契約をお願いしました。
− ユニフォームへの広告掲載は今年度から始まった新しい取り組みですが、分からないことや不安などはどうクリアされましたか?
久保本:ユニフォームに広告を掲載することは支援してくださる企業の看板を背負うことだと思います。その自覚をチーム全員が持てるか、持たせられるかということについて不安はありましたが、皆責任感を持って行動してくれています。
契約の面については、学生である私たちには分からないだらけで、正直最初は不安でした。しかし、幸いなことに神戸大学の職員の方々、スポンサー企業の担当者の方が積極的に支援してくださり、スムーズに契約を進めることができました。
− 手続きの点においても大学・スポンサー企業からの支援があったんですね。最初、学生からスポンサーシップ締結について相談を受けた時、どんな印象を持たれましたか?
北山(神戸大学):運動部と企業のスポンサー締結は神戸大学においても前例がなかったので、最初は正直驚きました。しかし、せっかく学生から勇気を出して相談してくれたので、大学としてできる限りの支援をして応えてあげなければと思いました。契約を進めていく過程で、他の大学やラクロス協会の方が快く相談に乗ってくださり、参考になる事例を紹介していただきました。
奥村(神戸大学):ちょうど本学としても、他大学でスポンサー契約を実施しているという事例を参考に昨年の7月に財務部事業推進室を立ち上げ、少しでも学生たちの支援につながるようにスポーツに焦点を当てて運営財源を確保していけないかと動いていました。そんな折に今回のお話をいただけた、というところです。また、体育会の学生さんと対話の中でクラウドファンディングの利用を希望する声があったため、学内関係各所に掛け合って課外活動団体のクラウドファンディングの利用開始を実現させるなど、少しずつ支援体制を整えているところです。(参考事例:課外活動団体用クラウドファンディングの取り組み)。
近藤(リエゾンドライビングスクール):女子ラクロス部の部員の多くが私たちの教習所を利用してくれていることもあり、以前から親しくさせてもらっていました。試合の観戦や練習の見学に行き差し入れなどをする機会はありましたが、もっと延長線上でサポートさせていただきたいとずっと考えていたので、今回のスポンサーシップのお話しはとても嬉しかったです。
スポンサーシップが生む新しい「価値」 地域に根差す学生コミュニティ
− 大学、企業の皆様にとっても新しい取り組みだったんですね。学生スポーツチームとスポンサーシップを締結する目的とはなんだったんでしょう。
近藤:「部費の負担がネックになり部活動を続けられない」という学生さんの声も耳にします。私は最初はラクロスのルールすら知らなかったですが、試合や練習で活躍される学生さんの姿にたくさん感動や元気をもらいました。そんな学生さんたちとの接点を作りつつ、これからも楽しく、安定した環境で部 活動を続けられるためにサポートしたいと思い、契約させていただきました。
奥村:大学によって、世界の大学や国内のトップクラスの大学と競ったりと、目指すところのレベル感は違うと思いますが、まずは地域に根差した存在であることが前提条件として大切になると思います。そのため、今回のように地域の企業にスポンサーシップという形で正式に支援していただけるということは大学にとっても大きな一歩だと考えています。スポーツをきっかけに、地域とのつながりを深めていければと思っています。
近藤:学生スポーツには、普段接していないスポーツでもつい応援してしまう魅力があります。今回のスポンサーシップをきっかけに他の学生団体と企業が繋がれば、学生スポーツ全体が盛り上がっていくんじゃないかなと。そんな思いを抱いています。
− 学生と企業の繋がりはこれまで限りなくゼロに近い状況でしたが、チームの運営力・組織力が上がり、学生スポーツが更に盛り上がっていく鍵になると考えています。
久保本:金銭面でも本当に心強かったですし、広告が掲載されることで社会との繋がりをより意識するようになり、チームの価値向上にも繋がると考えています。現状、学生チームの多くは企業と関わる機会がそもそも少ないと思います。今後、ユニフォームへの広告掲載をきっかけに学生と企業とが出会う場が増えれば、チーム力向上のためにスポンサーシップ締結という選択肢をとるチームも増えるんじゃないかと思います。
はじまりは人と人との繋がり 濃密な地域コミュニティを目指して
− 確かに「そもそもどの企業に声をかけたら良いか分からない」という学生チームの声を耳にします。
久保本:私たちは部活とは関係ない「教習所」という場でリエゾンドライビンスクールの方々と親しくなり、その繋がりが基となってスポンサーシップを締結していただくことができました。部活動として公式に企業と関わる機会は少ないかもしれないですが、こうした日常における人と人との繋がりから始めることもできると思います。
−「人と人との繋がり」がキーですね。他にも、チームの運営力や交渉力を磨いて企業にコンタクトをとり、直接プレゼンするといった方法もありますね。こうした取り組みをする過程でチーム力が向上していくと思います。
久保本:私たちも契約の過程で新しい考え方が身につきました。ただ、どんな方法をとるにしろ、自分たちの目標に共感して、応援していただける企業と繋がることが大切だと思います。リエゾンドライビングスクールさんはまさにそんな存在でした。そのためにも、チーム内で自分たちの目標や、理念について考え、言語化して伝えられるようにしておくことが大切だと感じています。
北山:スポンサーシップは企業との「契約」になるので、法人格がある大学の支援も必須です。他の大学においてもなかなか前例のない契約の形式だと思いますが、大学が学生の自治を守りつつ最大限支援してあげることも必要になると思います。
奥村:神戸大学は今年の4月から「大学スポーツコンソーシアムKANSAI(KCAA)」に国立大学として初めて参加し、課外活動のマネジメント強化に積極的に取り組み始めています。大学スポーツは学生の人間的成長はもちろん、地域への貢献や経済への貢献といった大きな価値があると考えています。これまで十分なリソースがありませんでしたが、今後他の大学においても学生スポーツへの支援が活性化すれば良いなと感じています。
− スポーツ庁やUNIVAS(大学スポーツ協会)の活動や、国立大学がスポーツメーカーと契約するといったような、学生スポーツを起点とした社会の動きが大きくなっていますよね。
北山:そうですね。実際そうした活動はとても参考になりました。ただ、学生スポーツのために大学のリソースを活かしきれているとはまだまだ言えない状況です。しかしながら、各部活動のOBOG会を集約した組織「神戸大学体育会系公認課外活動団体OBOG連合会」を新たに設立すると共に、若手職員を中心とした学生生活の向上を目指すプロジェクトも始動するなど、徐々に学生スポーツを支援する体制を整えつつあるところです。
近藤:経済的な理由だけでなく、そもそも部員が集まらないといった理由で活動を諦めざるを得ないチームもあります。将来的にはそういったチームの活動も支援し、地域一帯となって学生スポーツを盛り上げていきたいと考えています。
久保本:チーム内はもちろん、OGの方々からもユニフォーム広告についてポジティブな反応を頂けています。今回のスポンサーシップ締結は本当に神戸大学の職員の方々にお世話になりました。支援していただいている自覚を持ち、関わってくださった方々に価値提供できるよう活動していこうと思います!
編集後記 – JLAのビジョン
2020年秋に開催された「JLA Daybreak Conference 2020」において、ユニフォームへの広告掲載が可能となることが発表されました。
学生スポーツを取り巻く環境は、近年目まぐるしく変化し続けています。試合の勝敗、競技能力の向上といった「オンザフィールド – on the field」の要素だけではなく、社会に対してどういった価値を提供しているかという「オフザフィールド – off the field」の要素が大きな意味をもちつつあることは、最も大きな変化のひとつと言えます。
ユニフォーム広告は、ラクロスコミュニティと社会がより密接に繋がるための橋渡しとなるでしょう。
記事でも触れましたが、未だ学生と企業とが出会う機会はほぼゼロに近い状態です。企業との関係をゼロイチで構築するノウハウも浸透していません。今現在企業とのスポンサーシップ締結を望んでいる学生チームも、どのように始めたらよいか分からず止まってしまっているケースが多いと思います。JLAは、そんなチームに対して他チームの事例紹介や契約手続きの進め方のアドバイスなどを行い、サポートしていきます。
ラクロスコミュニティの構成員それぞれが自らの価値を認識し、社会に対して提供する。そして価値に対して社会がリソースを提供する。こうした相互に支え合う関係により、ラクロスコミュニティは持続可能な発展を遂げ、より豊かになるとJLAは考えます。
ライター