Columnコラム
2025年1月18日(土)に行われる「日清食品presents第34回ラクロス全日本選手権大会」(以下、A1※)で日本一が決まります。A1観戦をよりエキサイティングなものにするために出場チームの「主将の頭のなか」を覗かせてもらいました。
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A1(エーワン):全日本選手権のこと。ABSOLUTE ONE(アブソリュート・ワン)の略。日本一を決める戦いに加え、各地区の各世代の選手が集まってお祭りのような大会にするということを目指し、前回(第33回)から全日本選手権のことを「A1」と呼ぶことにしました。
参照:全日本選手権を「A1」という形にしたことについて(機関誌(2023-2024))
第4回 早稲田大学(女子)主将 柏原陽菜乃さん(#97)の頭のなか
【日清食品presents第34回ラクロス全日本選手権 A1開催情報】
日時:2025年1月18日(土) 女子試合 14:30~
アクセス:飛田給駅からの地図
対戦相手(女子):NeO(全日本クラブ選手権優勝)
日清食品presents第34回ラクロス全日本クラブ選手権大会 A1 特設サイト
2024年12月15日全日本大学選手権にて
第4回は、2024年12月15日(日)に開催された日清食品presents第15回ラクロス全日本大学選手権大会(以下、全学)で優勝した早稲田大学(以下、早稲田)主将#97柏原陽菜乃(かしはら ひなの)さんにお話を伺います。
「落ちない」気持ちとコミュニケーションで勝ちを掴み取る早稲田大学
全学決勝戦アピールラン時の#97柏原陽菜乃さん(この写真のみ日本ラクロス協会小保方智行撮影)
― 柏原さんが主将になるとき、どのようなチームにしたいと思っておられたのでしょうか。
柏原 二つあります。
一つ目が、学年関係なくコミュニケーションを取れるチームにすること。
二つ目が、最後に勝ち切れるチームにすること、です。
― 過去の戦績(※)を見ているとブロック3位やFINAL4敗退など「勝ち切れなかった」歴史が伺えますが、今年の全学優勝という「勝ち切り」は何を変えたことで生まれたのでしょうか。
柏原 先に挙げた「学年関係なくコミュニケーションを取れるチームにする」に繋がるのですが、今シーズンの早稲田は、下級生ものびのびとプレーをしたり、下級生から上級生へ要求することもあったりと、下級生が4年生に気を遣うこともなくプレーできたことが勝ち切れた要因として大きかったと思います。
あと、早稲田はもともとゲームコントロール(ゲームマネージメント)力が弱く、自分たちで試合の雰囲気に飲まれて自滅していたところがありました。
ミーティングをたくさんすることで、「自分たちはゲームコントロール力が弱い」という共通認識をあえて持つようにしました。
共通認識を持った上で、「では、そうならないようにするにはどうすればいいか」を話し合ったことが勝ち切るために大きかったと思います。
― 「試合の雰囲気に飲まれないようにする」の具体的な策やアイデアはどんなものだったのでしょうか。
柏原 今シーズでいうと5月に開催された早慶戦が(自分たちに与えた影響が)大きい試合だったと思います。
早慶戦というと、毎年、早稲田が負けてしまうのですが、今年は「絶対勝てる」と思って臨むことができたんですね。
実際、前半まで勝っていたのですが、後半に相手がギアを入れ始めると、自分たちで追い込んでしまい、マインド面で下がり続け、逆転負けをしてしまいました。
振り返ると、技術面では勝っていたので、マインドコントロールやゲームコントロールができていなかったせいで負けたのだと思い、7月に開催されるリーグ戦までの2ヶ月間は、自分たちで上げていく・互いに鼓舞し合うといったマインドコントロールに取り組みました。
ミーティングで擦り合わせをしたり、練習中に「雰囲気が悪いときにどう上げていくか」という練習をしたりしました。
― 関東学生リーグ戦のなかで、主将として一番苦労した点は何でしょうか。
全学決勝戦での#1戸上沙耶佳選手
柏原 一番苦労したのは、リーグ初戦の学習院戦前だったんじゃないかと思います。
5月の早慶戦で「チームの雰囲気が悪いまま負けてしまった」という経験をしたので、そこから2ヶ月間、練習試合を通してゲームコントロール力を伸ばして来たつもりでしたが、本当に学習院戦で発揮できるか不安がありました。
そんななか、学習院戦は学生日本一になるためには負けられない一戦であるはずなのに、試合1週間前にも拘わらず、ぬるっとした空気が流れていて、到底試合前には思えない状況でした。
早慶戦での「意地でも勝ちたい」という気持ちが見受けられず、「こんなので勝てるのかな」と個人的に不安を抱えていたところ、コーチから「このままじゃだめだぞ」と指摘を受け、自分もはっとしました。
組織ミーティングを開いて、部員全員と気持ちを素直に共有する、ということをしました。
部員からは、「早慶戦はビッグイベントとして捉えていたけれど、次の試合をそう捉えることができない」、「(自分のなかで)練習試合の一環みたいになっている」という意見が出ました。
部員の気持ちを聞けたことで、「でも、学生日本一になるためには、大事な一戦だよね」と気持ちを入れることができました。
そこに持っていくまでは、(自分以外のみんなの)気持ちの部分だったので難しかったし、不安でした。
― 学習院戦を迎えたとき、気持ちの面はクリアできたなという実感はありましたか。
柏原 組織ミーティングのあと、みんな気合が入って、それまでの練習はなんだったんだろうというくらい雰囲気よく練習ができました。
学習院戦本番では、同点という危ない場面もあったんですが、早慶戦で「落ちない」ことの大切さをみんな経験していたから、最後まで諦めずに戦い勝つことができました(8-5で勝利)。
― フィジカルや技術面でこれまでと変えた取り組みはありますか。
全学決勝戦での#3増田明香選手
柏原 フィジカルの大切さは全員が感じていたので、この一年トレーニングには重きを置いてきました。
「最後に試合に勝つためにフィジカル作りは重要なこと」というチームの共通認識があったので、辛いトレーニングもみんなでこなすことができました。
あと、個人個人がそれぞれ強みを持っているので、その強みを発揮できる環境があったのも勝ち切れた要因だと思います。
例えば、4年生のエースが不調で3年生の選手が入るという場合でも、フィールド内の選手とちゃんとコミュニケーションが取れていました。
いつもと違うメンバーが入ったからと言ってやりづらさがなく、どのメンバーが入っても同じレベルで戦えたというのが今年の良さだと思います。
個人個人の自主練やラクロスに向き合い続けた成果でもありますし、練習や合宿、ミーティングをたくさんすることで学年関係ないコミュニケーションが取れたお陰だと思っています。
― 学年関係なくコミュニケーションを取ることがプレーの質を落とさない要因の一つになったとのことですが、柏原さんが下級生だったときは、そうではなかったのでしょうか。
全学決勝戦での#29久野陽菜乃選手
柏原 自分が下級生のときは、「あれ、雰囲気が悪いぞ。こんな雰囲気の練習でいいのかな」と思ったとしても、先輩が作ったものだから自分が口を出してはいけない、と発信できなかったんですね。
結局、その日の試合は負けていました。
なんとなく感じる違和感、言葉ではうまく言えないけれど感じる違和感をなくしたいと思っていました。
試合に出る自分たちが勝ちに向かって集中していて気づけないことも、下級生だと気づけることがある。だから、それを言ってもらえるようにしたかったし、言ってもらえる雰囲気を作りたかったんです。
― A1出場までの道のりで、主将として一番うれしかったできごとは何でしょうか。
全学決勝戦での#47星川陽恵選手
柏原 リーグ3戦目の立教大学(以下、立教)戦です。
去年も立教に勝つことができたので、FINAL4常連校である強豪チームに2年連続で勝てることが何より大事だと思っていました。
その試合に勝てたことがうれしかったし(7-6で勝利)、チームとして自信になりました。
― 立教戦では、主将として、あるいはゴーリーとして自分のプレーでもいいですし、他のメンバーのプレーでもいいですし、これは良かったなというプレーはありますか。
柏原 立教戦では、後輩の#2 星井萌子さんがスタメンで出場しました。
星井さんは2年生である上に、ゴーリーというポジションは一年目で、しかもリーグ戦に出場するのが初めてだったので、「大丈夫かな」と心配していました。
でも、堂々と戦っていて、ビッグセーブもあって、2年生ながら頼もしいなと思いました。
星井さんと一緒に練習するなかで、「自分はこういうプレーをしたいんだよね」、「それできてるよ」とか「こうしたらいいんじゃないですか」と互いに言い合って頑張って来たので、星井さんの活躍はとてもうれしかったです。
― A1までの道のりのなかで、チームのどなたに一番感謝していますか。
柏原 部活内の仕事では戦術幹部、部活外の仕事では組織幹部と副将、あとアドバイスくださるコーチといった色んな人に支えられて主将をしてきたので、一番というのが難しいのですが…。
そうですね、一人に絞るとしたら、副将の#67秋山珠莉さん(4年生)です。
シーズンが始まってからここまで、チーム全員で駆け抜けて来たんですが、主将になったときに助けてもらったのが秋山さんでした。その時期に助けてもらったから今の自分があると思っています。
前主将は威厳のある方だったんですが、わたしは後輩にいじられたり、発言すると笑いになったり威厳がなく、自分の主将像に悩んだ時期がありました。
悩んでいたときに、副将の秋山さんが「そのままでいい」と言ってくれて、威厳や仕事の部分を担ってくれました。
自分のなかで苦しかった時期に、秋山さんがずっと寄り添ってくれたので、結果的に今の自分に繋がっていると思っていて感謝しています。
― A1ではチームとして、どのような勝ち方をしたいと考えていますか。
全学決勝戦での#31田中美亜選手
柏原 誰しもクラブチームのNeOが勝つんじゃないかと思っているなかで(※2の戦績参照。全日本選手権5大会連続クラブチームが優勝している)、わたしたちは超チャレンジャーなので失うものがないんです。
だから、いままでの早稲田の集大成を見せつけるんだという気持ちで臨みます。
社会人にはないスピード感やフィジカル、毎日練習ができるなかで培ったチーム力といった学生らしさ、早稲田の泥臭さで勝っていきたいです。
― 柏原さん個人として、ゴーリーとしてどんなプレーを見せたいですか。
全学決勝戦での#97柏原陽菜乃さん
柏原 これまでは学生のショットしか受けてきませんでした。
A1で対戦する社会人のショットは、学生より速さや精度の高さがあると思うのですが、だから止められないというのではなく、そういうショットも止めて、セーブで勝利に導きたいと思っています。
あと、主将としてこの一年意識し続けたことなのですが、試合中にチームに声を掛け続けたいと思っています。
A1当日、負け状況になる可能性も高いし、点差が今まで以上に広がる可能性もあるなかで、早慶戦での経験を活かして、自分たちを落とさないこと・笛が鳴るまで諦めずに戦い続ける気持ちの強さを持つことを大事にしたいと思っています。
チームのみんなが気持ちを落とさないように、チームへの声掛けを意識して続けようと思っています。
― A1でのプレーを楽しみにしています。ありがとうございました。
柏原 ありがとうございました。
【プロフィール】
名前:柏原陽菜乃(かしはら ひなの)
背番号:97 G 主将(4年生)
Photo by 日本ラクロス協会広報部 加藤正昭
Text by 日本ラクロス協会広報部 岡村由紀子